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コラム 堀江宏樹の「世界のお葬式」 presented by 雅倶楽部 2022年10月1日掲載

【タイの葬儀】なぜタイ人は「お墓」を持たないのか?!

多くのタイ人は「お墓」を持ちません。一方で、日本の「大乗仏教」とは異なり、「上座部仏教(小乗仏教)」が主流であることもあり、「お葬式」は多様性に富んでいるのが特徴です。本稿では、日本とも関係の深いタイの知られざる一面を「葬儀」とその「歴史」から迫ってみたいと思います。

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仏教国として知られているタイ。国民の95%が仏教徒です。しかし、日本の仏教がいわゆる「大乗仏教」なのに対し、タイで多く信じられているのは「上座部仏教」なので、お葬式にも違いがたくさんあります。

歴史エッセイスト・作家 堀江 宏樹

「上座部仏教」…小乗仏教は、大乗仏教側から見た差別的な用語になるので、使用は控えなくてはならない。

多くのタイ人はお墓を持ちません。しかし、お墓がないからといって、お葬式も簡素というわけではないのです。今回は、日本とも関係の深いタイの知られざる一面に、葬儀とその歴史から迫りたいと思います。

儀式を間違えると魂が「悪霊」に…

User:Mattes, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

タイには、日本のように葬儀一式をとりしきってくれるプロ集団としての葬儀会社は存在していません。現在でも家族の誰かが亡くなると、自宅で通夜を行うケースが圧倒的多数です。

葬儀と火葬は同じ寺院内で行われ、出棺の日は午前中から読経など儀式を行い、午後の出棺の際には個人が用いていたお茶碗の類を喪主が打ち砕く習慣があるそうです。

日本にも似た習慣があるかもしれませんが、タイの場合、仏教伝来以前からタイに伝わる“民間信仰”がかかわっています。現代でもタイ人はピィーと呼ばれる「悪霊」を非常に恐れているそうです。

誰かが亡くなると、その人の魂が恐ろしいピィーとなる可能性があるので、この世に故人の魂を居残らせず、すみやかに離れていってもらうための儀式として、適切な葬儀を行わねばならないという思想が残っているのです。

誰かが亡くなると、他の国と同じように湯灌がなされます。この時、かつてはマクルート(瘤蜜柑、コブミカン)という柑橘類の果実を使い、遺体を浄化しました。

Clemensmarabu, CC BY-SA 3.0, ウィキメディア・コモンズ経由で

また、以前は故人の死に装束として白い上衣が、二重に着せられていたそうです。一枚目はわざと後ろ前が逆になるよう着付け、故人の魂に「あなたは亡くなったのですよ」と伝えて、ピィーにならないようにしました。
しかし、二枚目は生きている人と同じように着せてあげます。

副葬品としては、故人があの世で使う紙製の特別なお金や、身の回り品をお棺に入れていくのですが、この時、すべての品のどこかに小さな傷を付けるのが、故人の魂をピィーにしないためのポイントでした。

理由は様々ですが、国際関係論学者の小泉康一教授の論考をもとに、筆者なりに考えを巡らせると、傷をつけることで、死者の魂に対するピィーの手出しを防げるとする説がひとつ。

また、それとはまったく逆の解釈になりますが、傷付きの品こそ、ピィーの持ち物という考え方がタイにはあるので、葬儀では故人に傷ついた品を与え、「あなたはもう死んだのだから、生きている人間に関わらないで」と諭すためという説です。故人をピィー、もしくはピィーに類似した存在として扱い、人間に悪影響を及ばさないように対策するのが、葬儀の目的のひとつとする説です。

ただ、現代では、死に装束も故人がお気に入りだった服を着せてあげるケースが多く、副葬品も葬具店で入手できる「冥都銀行」などと印刷されてある専用の”紙幣”や、あの世で住む家の模型などを(ピィー対策として、とくに傷付けたりせずに)使うようです。

かつては棺桶も死者が亡くなると、遺族が手作りしていましたが、近年では、冷却機能のついた棺桶を葬具店で買ってきて使うことが一般化しています。

それゆえ、自宅に祭壇を設け、お棺を安置し、弔問客を迎える期間が従来よりも大幅に伸びました。寺院でのお葬式と火葬は故人が亡くなってから奇数日に行うのがルールなのですが、中には100日以上も自宅で遺体と共にすごすケースもあるとか……。

タイ人男性は一生に一度は僧侶にならなければならない?!

供養の一環で、家族や親族の男性が髪をおろし、頭だけでなく眉まで剃って僧侶になる場合もあります。タイ人の男性は、一生のうちの一定期間を、最低でも一度は僧侶としてすごすことが道徳的に求められ、そうすることが何よりの親孝行だと考えられます。家族のお葬式がそのきっかけとなるケースも多いようですね。もちろん、これは期間限定の出家ではありますが、行動や食べる物に制限があるところは、タイが敬虔な仏教国だと思わせられます。

日本でのお通夜・告別式に相当する弔問期間が終わり、自宅から出棺された後は、寺院にて葬儀と火葬が行われます。かつては寺院の屋内火葬場に、薪を積んだ火葬台が設けられ、会葬者が順番に火を付けていきましたが、最近では日本の斎場にあるようなタイプの焼却炉が使われることも多いようですね。

タイの場合、遺体が完全に灰になるまで荼毘に付されるのが特徴です。

翌日以降になってから、遺族はロウソク、線香、骨壷などを持って寺院の火葬場に向かい、僧侶と共に「サームハープ」と呼ばれる“骨上げ式”を行います。地方では何日もかけて火葬にするケースが、現在でもあるそうですよ。

そして、何より興味深いのは中国系タイ人以外はお墓を持たないという事実です。故人の魂は、適切な葬儀の末に、あの世にいくことができたとタイでは考えるため、遺灰を納めるための墓は作りません。多くの場合、遺灰は家族の手で川や海に流してしまうそうです。

日本人の場合は、日本人僧侶に読経してもらうこともできます。バンコク市内には、タイで亡くなった日本人専用の納骨堂も見られます。

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