『愛の不時着(2019)』以降、『梨泰院クラス(2020)』、『今、私たちの学校は…(2022)』など、ネットフリックスの韓国ドラマが日本で立て続けにヒットしています。
韓国ブームの再来を感じる昨今ですが、冠婚葬祭の話では日本と類似点もある一方、大きな違いが感じられます。この点では依然、「近くて遠い国」の印象が残る韓国のお葬式の歴史を今回はお話したいと思います。
病院に併設された葬儀ホールが増加
最近の韓国では、国民の約3割がプロテスタント(キリスト教)、2割が仏教徒、そして5割が無宗教だそうです。無宗教とはいっても、儒教文化の根強い韓国では先祖崇拝が熱心に行われているようです。
『愛の不時着』でも、化粧品会社経営の主人公の女性ユン・セリのことをもう亡くなってしまったと誤解した関係者たちが、会社ロビーにお花と彼女の写真を飾り、「安らかにお眠りください」とメッセージを書いた幕を掲げて服喪しているシーンがありましたが、あまり宗教色は見られませんでした。これも国民の5割が無宗教というか、特定の宗教の信徒というわけではない現代韓国の事情を反映しているのかもしれません。
人が亡くなると、その方の手足をまっすぐの状態に整えた上で、日本の経帷子(きょうかたびら)に相当する「寿衣」を着せ、顔には白い布をかぶせます。枕元には焼香のための机や故人の遺影が飾られ、甘酒などが備えられます。
24時間経過すると、遺体は納棺されるのですが、葬儀は亡くなってから3日、5日、7日のいずれかの日に行います。
お葬式までの期間が「バムセウム」と呼ばれ、日本の告別式・お通夜にあたります。葬儀までは夜通し、弔問客を迎えねばなりません。
現代でも3日めにお葬式を行う「三日葬」が一般的ですが、マンション住まいの方も多くなっているため、韓国では自宅ではなく専門の葬儀ホール、それも病院に併設されたホールで葬儀を行う家庭が増えているとのことです。
現代のソウルでは代表的な葬儀場2つが、いずれも大病院の敷地内に存在しているとか。
日本人には少し驚きかもしれませんが、病院と葬儀場がつながっていることは、昼夜を問わず弔問客を受け入れるという葬儀の伝統を守る点では好都合なのかもしれませんね。
合理的といえば、かつては故人との関係性で、喪服にも何種類もあったそうですが、現在では喪服も簡素化され、韓国服では白か黒いもの、洋服であれば黒い色のもので、左胸に喪章かお花を付けるのが一般的になりました。なお、韓国にも日本と同じように、相互扶助を目的としたお香典の習慣があります。
なぜ土葬が主流だったのか?
さて、葬儀が終わると埋葬です。
伝統的な土葬の場合、葬列を組んで墓地に向かい、石灰を塗り込んだ穴の中にお棺を埋葬します。そして土をこんもり丸く盛って、傍らに石碑などを置く場合もあります。「土饅頭」と俗にいわれる土葬法ですが、日本人の目には小さな丘が出来ているような印象があると思います。
かつて韓国のお葬式は、このような形式の土葬が一般的でした。自分の親や目上の親族の遺体を燃やす火葬は、儒教文化の「孝」に反するという考え方が強かったからです。
実は、これは李氏朝鮮時代(1392-1910)の名残で、当時の法律にあたる「経国大典」によって、「両親の遺体を火葬にした場合は厳罰」とされました。
お葬式にも儒教色が強くなったのは為政者側の意向です。
仏教といえば当時も火葬だったので、仏教界の力を削ぐための施策ともいえるでしょう。
李氏朝鮮時代の貴族階級「両班(やんばん)」たちは、こぞって立派な墓所を持ちました。墓所だけを所有しているのではなく、お墓のある山のふもとに「斎室(さいしつ)」と呼ばれる平屋の一軒家を持ち、祭事やお墓参りの際の拠点とすることもありました。土葬墓地には広い土地が必要ですが、お墓をきれいに管理し、維持していくには膨大な手間と経費がかかるので、それを賄いつづけることが、高いステイタスの証だったのです。
もちろん、一般庶民はこのような大規模な土地や建物を持てないため、管理者のいない一部の森林を墓所として使ったそうです。
現在でも土葬用墓地は山や丘の斜面に存在していますが、土地が高騰しているので、お金持ちにしか許されないタイプの埋葬法となったといえるでしょう。なお、近年の韓国では、共同墓地が充実して墓地問題が解消しつつあるようですね。
土葬から火葬へ…
また、こうした伝統的な土葬の代わりに火葬に注目が高まっています。1990年の政府調査では8%でしたが、その当時でも実質2〜3割で、2000年代の火葬率は約5割にも達したとのこと。
従来、火葬は仏教徒や、未婚のまま亡くなった人、そして、伝統的な土葬墓地の土地代や維持管理費用の経済的負担が家族の重荷になると考える人たちを中心に行われていました。
韓国の火葬は遺骨を残さず、完全に灰にすることが普通です。
そして、その後、遺灰を山河に撒くことも多いので、これはいわゆる「自然葬」と同義なのでした。それゆえ、世界的にも増加している「自然葬」を希望するので、それに先駆けて遺体を火葬するというケースが多くなってきているようですね。
仏教の葬儀では、僧侶を自宅に招き、親族以外の会葬者は呼ばないケースが多いようです。キリスト教の葬儀は葬儀と永離式を行うなど、信仰によってお葬式の“常識”が韓国では大きく変わりつつあります。